ミュージカル『ウィキッド』:名作「オズの魔法使い」を二人の魔女、エルファバとグリンダの視点から描いた作品。異なる生き方を尊重し、自らの意志で道を選ぶ強さをテーマに、観客に感動を与える。グラミー賞をはじめ数々の栄誉に輝く音楽、煌びやかな衣装、そして壮大な舞台装置が魅力の超大作であり、老若男女を問わず多くのファンを魅了し続けている。
人間と動物が共に言葉を交わし、暮らす自由の国・オズ。しかし、動物たちは徐々に言葉を失いつつあった。緑色の肌と魔法の力を持つエルファバはシズ大学に入学し、美しく人気者のグリンダとルームメイトになる。当初、全く異なる二人は激しく対立するが、次第に互いの心を理解しかけがえのない友となる。そんな中、エルファバはオズの支配者である魔法使いからの招待を受け、グリンダと共にエメラルドシティへ向かう。そこで重大な秘密を知ったエルファバは、一人で戦うことを決意。一方でグリンダはオズの国を救うシンボルとして祭り上げられる。運命に引き裂かれる二人の友情は、やがて対立へと向かう。
公演は、不穏なオープニングナンバーから始まる。ステージ上には赤く光る目を持つ巨大なドラゴンが動き出し、不気味な猿たちはロープにぶら下がり飛び出してくる。開始早々、観客を驚かせる演出が盛り沢山だ。山本紗衣が演じるグリンダの余裕ある高音ビブラートが、オープニングから場内に響き渡る。アンサンブルとの重厚感のあるハーモニーが、物語の悲劇的な始まりを予感させた。
エルファバ役の江畑晶慧は、シズ大学のシーンでその圧倒的な歌唱力と表現力を披露。特に『The Wizard and I/魔法使いと私』では彼女の力強いパフォーマンスが際立ち、観客の心を掴む。一方、華やかで心踊る『Dancing Through Life/人生を踊り明かせ』のパフォーマンスに、会場はその自由で楽しい空気に包まれた。
また、コメディセンスにあふれた『Popular/ポピュラー』では、グリンダの明るくチャーミングなキャラクターが存分に発揮され、客席に笑いが広がった。
物語が進むにつれ、エルファバとグリンダはエメラルドシティで魔法使いと対面。ここでエルファバが真実を知り、彼女の心に決意が宿る瞬間が訪れる。一幕のクライマックスでは、江畑が歌う『Defying Gravity/自由を求めて』が観客を圧倒。彼女が空高く舞い上がるシーンは、その感動的な歌唱とともに観る者すべてに強烈な印象を残した。
さらに『No Good Deed/闇に生きる』では、エルファバの内なる葛藤が江畑の迫真の演技によって見事に描かれ、観客は息を飲む思いでそのシーンを見守った。
フィナーレでは、エルファバとグリンダが真の友情で結ばれることを示す『For Good/あなたを忘れない』を披露。二人の美しいハーモニーが観客の心に深く響き渡った。
アンサンブルのレベルの高さも特筆すべき点だ。特に一斉に声を合わせて歌う場面では、会場全体がそのダイナミックさに圧倒され、グッと惹きつけられるものがある。舞台のセットも素晴らしく、入場した瞬間からその迫力ある世界観に引き込まれる。
15年ぶりに大阪で上演された劇団四季のミュージカル『ウィキッド』。物語の深さと豪華な演出が見事に融合した超大作であり、その魅力は健在であった。江畑晶慧や山本紗衣の素晴らしいパフォーマンス、そして圧倒的な音楽とビジュアルが、観客に驚きと感動を与えた。本作は、大阪の演劇界に新たな息吹を吹き込み、これからも多くの観客を魅了し続けるだろう。
撮影:野田正明/ Ayaka Ozaki
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