舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」の脚本を手掛けたジャック・ソーンが脚本を担当、是枝裕和監督の映画「ワンダフルライフ」を原作とした舞台「After Life」。ロンドンのロイヤル・ナショナル・シアターで行われた2021年6月の初演で大きな話題を呼んだ。KAT-TUNの上田竜也が主演を務め、数々の舞台作品を手掛けてきた河原雅彦が演出を担当。
定刻になり暗転する事も、開演のブザーが鳴る事もなく登場する2番(上田竜也)と4番(大崎凛)。ステージ上に散りばめられたのは石ではなく大量の靴だった。死人の遺品かと咄嗟に想像してしまう。それらをアイコンタクトで笑みさえも浮かべながら、棚に収納していく二人。つられて微笑んで良いのか戸惑う異様な空間が漂った。ステージと観客の照明に差が無いせいか、自分も物語に入り込んだような気分になる。後に登場する5番(相島一之)が客席に向かって発した「おはようございます」に思わず返答しそうになる口を閉じた。自分も死後の世界「After Life」に来てしまったかのような没入感に浸ったところから物語は始まる。
月曜日から始まるストーリは日曜日に向かうに連れ曜日の表示が派手になり、終わり=死が近づいて来ていると悟らされる。一幕で見せた2番の満月を見つめる切ない表情が脳裏に焼き付き離れなかったが、それが二幕への伏線だとは思いも寄らなかった。暗転する事もなく、ストーリーの流れのまま自然と転換作業が進められる幕間。どこまでが演者でどこまでが芝居でどこまでが本物のスタッフか分からなくなる斬新な演出で、幕間も目が離せない。
前半では責任を持って仕事を全うしようとする姿勢が印象的だった2番。生前彼女と過ごした満月の夜の事を思い出し、今まで押さえ込んでいた気持ちが一気に溢れ出した姿には息を呑んだ。始終にこやかだった様子とは打って変わり、泣き叫び狂う豹変っぷりには圧倒された。あまりの迫真の演技にどんどん物語に引き込まれていった。役者一本ではなく、音楽活動、バラエティとマルチに活躍する多忙な上田氏がこれ程の演技力も兼ね備えているとは、これまでの相当な努力が安易に想像できた。
死後1週間の間に2番ら案内人により導かれ、後の永遠の時を過ごす事になる生前の思い出1つを選ぶ死者。1週間以内に思い出を選べず案内人になった2番達。そんな2番が下した決断。1番(野波麻帆)が放つ「こんな事想像してなかった」。衝撃の結末は観客の気持ちをそのまま代弁した台詞だった。天井からステージへ降り注いだ死者の靴。再び訪れる月曜日。回収されていく靴。冒頭で見たこの光景、見事な伏線回収だった。自分だったらどの思い出を選ぶだろう。様々な事情でこの世を去った死者のそれぞれの想い。帰路でも途絶えない余韻。自分の人生について色々と考えさせられる。そんな作品だった。
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