ミュージカル「ビートルジュース」:「チャーリーとチョコレート工場」(2005年)などで知られるティム・バートン監督の映画作品を原作としたミュージカル作品。 2019年にブロードウェイで初上演され、同年のトニー賞には作品賞、脚本賞、音楽賞をはじめ8部門にノミネートされるなど大きな話題になった。2021年には韓国でも上演を果たし、2022年からは北米ツアーもスタートした。日本ではSixTONESのジェシーが主演、福田雄一氏が演出を担当。
不慮の事故で幽霊となった夫婦は、自宅に引っ越してきた実の母を亡くしたばかりのリディア(清水美依紗)とその両親を追い出そうと、バイオエクソシストのビートルジュース(ジェシー)の力を借りる。ビートルジュースのアドバイスに従い、幽霊夫婦が住人たちを脅かす中、幽霊が見えるリディアが協力し両親に家を手放すよう説得する。しかし両親から反撃を受け、リディアが再びビートルジュースに助けを求めたところ、ビートルジュースが暴走し思わぬ展開に。
開演前、「原作映画に対してジェシー氏は好青年で若過ぎるのでは」という懸念を少し持っていた筆者は、馬鹿を見ることになる。雷鳴に重低音、ゴーストの声、棺に集まる喪服の集団。リディアの母の葬儀から物語は始まった。一転、参列者の奥から現れたのは皮肉に歌うビートルジュース。登場曲の「The Whole “Being Dead” Thing」でオープニングからがなり声で操る台詞に歌唱、あれだけがなった後とは思えないほど綺麗な高音で観客を死の世界へ招いた。早くも多くの時事ネタや地方ネタが散りばめられていたり、客席に絡むパートもあり、何度観ても楽しめそうな要素が盛り沢山。清水氏も亡き母を想い歌う「Dead Mom」で歌唱力の高さを魅せつけた。その力強いパフォーマンスから、母への強い想いがひしひしと伝わってくる。後の「Say My Name」でも高音パートまで美しく歌い上げた。
第一幕の最後に悲願の復活を遂げたビートルジュースの”爆誕”は、パイロや舞台装置を駆使し彼の喜びを十分に物語っていた。楽曲はここまででもバラードからラテン系まで幅広く、音楽を味わいに来るだけでも価値を感じる。
二幕が始まり、ジェシー氏が引き続き魅せる各楽曲中の繊細でコミカルな表情と動き、普段アイドルとして活動していると思えないような歪んだ姿勢など、随所に彼の細かいこだわりを感じる。彼は英語話者という点もあり、それを活かしたキャスティングなのかと思ったが、それを持て余し他のポテンシャルで見事に演じ切っていた。物語が進めば進むほど、ミュージカル「ビートルジュース」の主演は彼以外考えられなくなっていく。また、共演者のリアクション等からアドリブと察する演出が非常に多く見受けられたが、それらが「台本通りなのか?」と混乱する程自然で、彼は役を自分の物にしていた。
一方リディア達が迷い込んだ死の世界では、映画と同じ頭の小さなキャラクターも登場し、原作ファンには嬉しい演出が。彷徨うリディアの、母を想う涙や、父が内に秘めていた想いを吐露するシーンはコメディ作品の中でも心に響く瞬間で、しっかりと客の涙を誘っていた。対して、クライマックスの「Jump in the Line/ Dead Mom (Reprise)」は明るくかつ壮大で、コメディらしく観客を笑顔で包み幕を閉じた。
全体を通して清水氏のパフォーマンスも素晴らしく、彼女の別の作品も観てみたくなった。また、ビートルジュースの歌は声色を自在にを変える必要もありコメディ色も強く、アラジンのジーニーの皮肉版の様。ミュージカルであれほど動き回り喋り倒しながら歌い踊ると、「無理してる」感が出がちでコメディの部分に観客が笑いきられない事が多々ある。しかしジェシー氏はそれらを自然にこなし、歌で魅せるだけでなく次から次へと客から笑いを勝ち取っていた。ミュージカル「ビートルジュース」は楽曲も聴きやすく、ストーリーも明瞭で重過ぎず愉快。ミュージカル初心者にもお勧めしたい作品だ。
Photo Credit: [© Fuji Television Network, Inc.]
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